お侍様 小劇場 extra

    “親ばかです、何か?” 〜寵猫抄より
 


ちょっと前ならアメリカンショートヘアが引っ張りだこ。
も少し遡れば、シャムネコが高貴で素敵とかいやいやペルシャが愛らしいとか、
どっちにしてもやや裕福なおうちの愛玩動物という印象が強かった。
それより、番犬にもなり、雑種もそれなり可愛いしと、
血統書つきであることにさほどこだわりもないままに、
わんこを飼う家の方が断然多く、
徐々に余裕があるご家庭が増えるに伴い、
コリーだチワワだ、何のトイプードルが可愛い、
いやいやポメラニアンのあのつぶらな瞳はどうよ、
ダックスフントも人懐こいよ、コーギーだって愛嬌があってと、
様々にバラエティ豊かな飼われようとなったものの、
昨今では、ずっとトップを張ってたわんこより
にゃんこの方が飼いやすいという評が広く聞こえており。
飼育されている数こそさほど急に増えちゃあいないが、
割合でみるとわんこたちと同じほどというまでに人気が上がっているらしく。
たとえ室内飼いでもわんこには散歩はやっぱり要るだろし、
トイレや無駄吠え、待てなどなどをしつけなきゃならぬ。
ところが猫は、砂を敷いた容器を置いとけばトイレも自然に覚えるそうで。
外へ出られる扉を用意すれば、やはり勝手に出かけてちゃんと帰ってくるし、
余程に癇の強い子や新入りが増えでもしない限り、犬ほどうるさく鳴くこともない。
(発情期は別だけど…)

 “まあ、ウチの場合はそういったのは後付けですが。”

かつてのわんこが、
スピッツかコリーかセントバーナードくらいしか知名度もさっぱりだったところから、
上記に並べたように あれこれ取り沙汰されるほど
日本人へも馴染み深くなったのを追うように。
猫もまた、ラグドールが大人しいとか、マンチカンの足の短さが愛くるしいとか、
スコティッシュホールドの中折れ耳が可愛いとか、
ロシアンブルーの毛並みの輝きが麗しいとか、
こちらもまた様々に多岐にわたって取り沙汰されるようになっており。
そうまでいろんなにゃんこが知れ渡るようになればなったで、
メインクーンですか? ご飯を注意しないとどこまでも大きくなるでしょうなんて
案じられかねないのが当家のアイドルさんなのだが、

 “不思議と、よそ様からそういうことを案じられたことってないなぁ。”

知己へは、どうやら育たない仔猫らしいと苦しい言い訳をしてあるし、
実際、いつまでも幼児のままの久蔵ちゃんは、
今日も今日とて

 「あ、これ待ちなさいっ、久蔵っ。」
 「にゃっ♪」

目の前へ転げて来たのはボールペンのキャップ。
板の間の上をコロコロカラカラ軽妙な音とともにやってきたそれを
ぱっくり咥えたそのまま どこかへ隠すつもりか、
追っ手である七郎次さんの制止の声も何のそので、
てこてってと駆け出したおちびさん。
華麗な美貌と裏腹に、実は豪快な性格も持ち合わせておいでの敏腕秘書殿は、
作家せんせえである主人の勘兵衛が、
財産として保有している結構な規模の家作の管理も任されており。
中には雑居ビルなんてのもあったりし、
ややこしい事務所にせんと占拠し掛けた怪しい輩を、
凄みじゃあ負けないよと
鋭い眼差し一線で追い払ったほどの肝っ玉の太いところも見せる癖に。

 「待て待て待てったら待て。」

小さい相手に合わせてのこと、
中腰になっての駆けっこに振り回されてるところは何とも可愛い。
広い洋館の中、長いお廊下にまで飛び出した鬼ごっこに、
丁度、島谷せんせえの原稿を取りに来ていた編集員の林田さんが、
おやまあと苦笑してみせる。

 「相手は猫なんだから、人の言葉は判らないってのにねぇ。」

なのについつい、しかも丁寧に声掛けしちゃうのが不思議ですよねぇなんて、

 「待ちなさいったら、咥えたままだと喉ついちゃうよ?
  ほら、言うこと聞かないか。」

叱っている割に甘い甘い語調で
そんなお声を掛けてる七郎次の様子へだろう、
あの切れ者のシチさんでも、
すっかり参ってますよねぇと言いたそうに紡いだのだけれど。

 “ただの猫ならそうなのだがの。”

何せ彼らには小さなお子様にしか見えぬので、
そうともなると、可愛いお目々をついちゃうよとハラハラもするし、
言葉が通じそうな気がしてのこと、
丁寧なお言いようでの待て待てにもなるってもんで。

 「そういや今日は猫の日ですよね。」

今思い出したような言いようをして、これを久蔵ちゃんとクロちゃんへと、
ちょっと触れるだけでびよよんと揺れる素材のタクト、
先っちょにミツバチのおもちゃつきを2本、
お土産にともって来ていたりする気の利きようであり。
ほら、こんなですよとペットショップのロゴつき袋から出した途端に、

 「♪♪」

いつの間にか書斎に紛れ込んでいたクロちゃんが、
うずうずが止まらなんだか
林田さんのお膝経由でお見事なジャンピング。
びよよよよんと震えてたミツバチさんをはっしと掴まえ、
そんな無邪気なところ、
宵になってから御主様にせいぜいからかわれたのは
また別のお話なのでありました。



   〜Fine〜  16.02.22.


 *いやもう、忙しいのに変わりはありませんが、
  この日のお話は何としても書きたくて。
  中途半端な出来ですいません。
  久蔵さんもまた、陽が落ちてから兵庫さん辺りにからかわれたりしてな。
  鬼ごっこを観てたぞとか言われて。(笑)

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